頑張り主義や競争社会によって精神的に追い込まれるのが、そもそもの原因だと思います。

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「自殺は犯罪ではないから警察も踏み込んで対応できない。保護すべき行政も対応が不十分でした。亡くなった彼らは何も悪いことはしていない。社会や周りの人に追い詰められた構造的犯罪なんです」

 

 

 

 


「自殺しようとした人の心に響く食べ物は何だろうか? と考えたんです。昔は正月になると、向こう三軒両隣が集まり、杵で餅をついておろし大根をつけて、みんなで食べました。それが子どものときのいちばんの思い出でした。だから餅を食べて両親や故郷を思い出し、生きる糧になってくれればと」

 

 

 

 


「相手の横に行き、“今日までつらかったんでしょ?”と声をかけ、肩を叩いてあげるんです。そうするとどんな大きな男でもしおれてしまいます。女性は泣き崩れて、しがみついてきますよ。これが現場なんです」

 


 これに続いてかける言葉も決まっている。

 

 

 

 


「わしがなんとかしてやる!」

 


 茂さんがその意図を説明する。

 

 

 

 


「“なんとかなるよ”ではダメなんです。なんとかならないからここまで来るんでしょ? だったらわしが身体を張ってでも、なんとかしてやると」

 

 

 

 


「自殺を決意する人たちは、自分のアパートや家を手放し、友人の関係も断って仕事もない。お金もない。ここへ来るのは片道切符。そんな人に“なんとかしてあげる”と大口を叩く以上、自腹を切るしかありません」

 

 

 

「公務員には民事不介入の原則があります。だから家庭内の問題に立ち入ったらあかん。でも本当に自殺から保護するには、相手の悩みごとを取り除いてあげないといけないんですよ」

 

 

 

 


「そうした批判は、現場を知らない人が同情で言っているだけです。自殺を考えている人の心理状態は、精神を病んでいる人ばかり。一時的な感情で自殺に追い込んでいる、一種の“死にたい病”なんです。それを放置したらいつか飛び込む。医者が病人の身体を手術するとき、傷つけても傷害罪に問われないのと同様に、わしが介入するのも正当な行為なんです」

 

 

 

「頑張り主義や競争社会によって精神的に追い込まれるのが、そもそもの原因だと思います。子どものときから英才教育を受けさせ、学業成績が落ちると叱る。そんな空気感が蔓延した社会構造に問題があるのではないでしょうか。いわゆる貧困からきているわけではないでしょう」

 


 競争社会は必ずしも人間の幸福につながるとは限らない。むしろ足の引っ張り合いをするだけだ。そう頭ではわかっていながらも、いまだに日本社会は「勝ち組」と「負け組」を分ける境界線が暗黙のうちに敷かれている。ゆえに自分と他人を比較し、劣等感や自信喪失、厭世観に苦しむ。そうして負のスパイラルから抜け出せない人々が、東尋坊を目指すのではなかろうか。

 

 

「大丈夫や! 生きる道はある。アホなこと考えるなよ!」