本書の主張は明確である。人生を「半分」あきらめよう(そのつもりで生きていこう)、というものだ。
これを聞いて「なるほど…」と思う人であれば読む価値は高いだろう。

これまでの「ふつう」はもう「ふつう」ではなくなりつつある。つまり、「ふつうに就職」、「ふつうに結婚」、「ふつうに子育て」というこれまでの価値観は失われつつある。少子高齢化で若年世代も減っていき、経済も上向いていく兆しがない。そんな縮小していく日本で暮らしていく以上、これまでのように「ふつう」を望むことが出来なくなりつつある。そういったネガティブな日本の現状をデータも示しながら論じる。

「こう考えれば、私たちが気にかけている『ふつう』が今や、いかに少数派であるかがわかります。なのに、結婚していない人は『結婚するのがふつう』と考え、焦りや劣等感を抱きます。一方、結婚して子どもがいない人は『子どもがいるのがふつう』と焦りますし、一方、子どもがいても、一人しかいない家庭は『一人っ子がかわいそう』『ふつうは二人はいるもの』と劣等感を抱くのです。実際には、ごく少数しかいない「ふつうと自分を比べて、焦ったり、不安を抱いたり、劣等感を抱いたりしているのです。もう、こんな無益なことはやめましょう」(72頁)

失われつつある「ふつう」を追い求め、運よく「ふつう」を実現した他人の幸せを理想として比較している以上は決して幸せになれないということだろう。

そこで必要になってくるのは、上手に「あきらめる」ことである。実体のない「ふつう」を求めるのはもうあきらめよう。あきらめて、あきらめて、それでも自分自身のなかに残ったものに全力を注いでいけばいい。そういったプロセスこそが、「あきらめる」ということばの本来の意味である、物事を「明らかに見る」ということなのである。

2011年のあの大震災によって多くの人は、あたりまえだと思っていたものが決してあたりまえではないと感じるようなった。明日何がおこるかわからない、何がおこっても不思議ではない。そんな感覚を抱きながら生きる現代人にとって、本書で示されている考え方が必要となってくるのではないだろうか。